あなたの知りたい介護が見つかる、つながる

制度と生活の狭間でどう判断するか-田中克典『1分でわかる 新人ケアマネのしごと術』

こんにちは。けあむすび編集部です。
本日は、書籍「1分でわかる 新人ケアマネのしごと術」著者である田中克典さんへのインタビューをご紹介をいたします。

壁に立つ著者の男性

制度と生活の狭間でどう判断するか
-田中克典『1分でわかる 新人ケアマネのしごと術』

 

ケアマネジャーとして現場に立ち始めたばかりの頃、「これって自分の仕事なのだろうか」「誰に、どこまで対応すればいいのか」そんな迷いを抱えた経験はないでしょうか。

『1分でわかる 新人ケアマネのしごと術』(翔泳社)は、そうした新人ケアマネジャーが現場で直面するリアルなつまずきに、実務目線で寄り添う一冊です。
引き継ぎ対応や臨時対応、判断に迷いやすい場面など、「教科書には載りにくい実務の勘どころ」が具体的にまとめられています。

著者の田中さんは、約25年にわたりケアマネジャーとして現場に携わり、新人の育成や、支援が難しいケースにも数多く向き合ってきました。その中で強く感じてきたのが、「新人が一人で抱え込んでしまい、辞めてしまう現実」です。
現在は、埼玉県川越市の株式会社スタートラインで主任ケアマネジャーをしています。

本記事では、田中さんへのインタビューを通して、本書を執筆した背景や、ケアマネジャーの人手不足の課題、現場で語られるシャドーワークへの向き合い方、そしてケアマネジャーという仕事のやりがいや未来について、伺いました。

教科書はある。でも「現場の悩み」は載っていなかった

ーー今回『新人ケアマネのしごと術』を執筆された背景を教えてください。

最初のきっかけは、出版元である翔泳社の編集者の方とお話しする中で、「新人ケアマネ向けの実務書が、長い間アップデートされていない」という課題を共有したことでした。
いま定番とされている書籍は、2010年代前半につくられたものです。
教科書的に非常によくまとまっていて、ケアマネジメントの全体像を学ぶうえでは、今でも価値のある内容だと思います。

ただ一方で、現場を見ていると、いま新人ケアマネが悩んでいるポイントとは、少しズレがあるとも感じていました。
実際の仕事では、引き継ぎ対応や臨時対応など、制度と生活の狭間で判断が求められる場面に直面することが多く、そこで悩んでしまう新人ケアマネも少なくありません。

さらに、現場ではケアマネジャー不足が続いています。資格は取得したものの実務に就かない人、就いても「思っていた以上に大変」と感じて、早期に離職してしまう人も少なくありません。

そうした状況を目の当たりにして、「新人が最初につまずきやすいポイントを、実務目線で支えられる本が必要だ」と強く思うようになり、この本を書くことにしました。

 

ーー本書の一番の特徴はどこにありますか?

 

理念や制度の解説よりも、「現場ですぐに使える実務」に思いきって焦点を置いた点です。多くのケアマネジャー向け書籍は、ケアマネジメントの流れに沿って構成されていますが、実際の現場では、新人はいきなり新規ケースを担当するよりも、多くの場合、前任者からの引き継ぎから始まります。

そこで本書では、引き継ぎ対応を早い段階で取り上げ、新人ケアマネが最初に直面する課題から仕事を理解できる構成にしました。また、臨時対応や判断に迷いやすい場面など、検索しても明確な答えが出にくい実務については、新人ケアマネの目線に立ち、先輩がそばで声をかけるような感覚を意識して、具体的な事例を交えながら解説しています。

ケアマネしごと術の本のページ

『1分でわかる 新人ケアマネのしごと術』

制度の改善を待つ間にも、現場では判断が求められる

ーーケアマネジャーの人手不足について、どのような課題感をお持ちですか?

 

人手不足は、もう慢性的ですね。 有効求人倍率は約10倍になり、完全な売り手市場です。
ただ、受験者数自体は大きく減っているわけではありません。法人の方針で受験を勧められ、研修費用なども法人負担で、「とりあえず資格は取得する」という人も一定数います。

問題は、その後です。資格は取ったけれど、実務には就かない、あるいは就いても続かない。ここが、人手不足の大きな要因になっています。

実際に現場に入ると、業務量の多さ、責任の重さ、関係機関や家族との調整などに一気に直面します。そのギャップに圧倒されてしまい、「思っていた仕事と違う」と感じて、早い段階で離職してしまう人も少なくありません。せっかく時間をかけて資格を取ったのに、そこで踏ん張れずに終わってしまうのは、本当にもったいないと感じています。

 

ーー人手不足につながっている要因は何だと考えていますか?

 

 一番大きいのは、業務範囲の広さと曖昧さだと思います。
「困ったらケアマネジャーに相談」という流れができあがっていて、 医療・介護・生活の細かな問題まで、すべて集まってきてしまう。
特に新人の頃は、「これは自分の仕事なのか」「どこまで対応すべきなのか」と、判断に迷う場面が本当に多いんです。

もちろん、処遇改善や制度面の見直しについては、国が進めていくべき部分だと思っています。実際に最近では、ケアマネジャーも処遇改善加算の対象になるなど、少しずつ動きも出てきました。ただ、制度が整うのを待っている間にも、現場では今日・明日の判断を迫られます。新人ケアマネにとっては、「今まさに困っていること」をどう乗り越えるかが切実なんですよね。

だからこの本では、制度を変えることよりも、現場で迷う経験を一つでも減らしたいと思い「こんなとき、どう考えればいいのか」という判断のヒントを示すことを意識しました。

新人さんが一人で抱え込まず、「これなら何とかやれそうだ」と思える時間を少しでも増やしたい。そんな思いで書きました。

 

ーー最近よく聞く「シャドーワーク」については、どう考えていますか?

 

シャドーワーク自体は昔からありました。ただ、「シャドーワーク」という言葉が生まれたことで、問題として意識されるようになったんだと思います。

特に、独居の高齢者で、家族や身近な支援者がいないケースでは、電球交換や鍵の不具合、通院の付き添い、業者手配など、「誰かがやらなければ生活が成り立たないこと」が数多く出てきます。私自身もやむを得ず対応したことはあります。

実際にこんなケースがありました。
独居で、身寄りもほとんどなく、猫を何匹も飼っていた高齢者の方が肺炎で緊急入院することになったんです。
ご本人にとって猫は家族同然で、「猫を置いて入院できない」という強い思いがありました。そこで、地域包括支援センターや民生委員、訪問看護事業所などと連携し、入院中は誰が、どこまで猫の世話をするのかを話し合いました。
結果として、役割分担をしながら、期限を決めて対応する形を取りました。

このように、どうしても誰かが一時的に担わなければならない場面はあります。ただし、それをケアマネジャーが無償で、際限なく引き受け続けることは違うと思っています。

大切なのは、「これは本当に緊急性があるのか」「ケアマネジャーがやるべきことなのか」「他に頼れる支援や仕組みはないのか」を一つひとつ整理し、関係者と共有することです。

やらないと突き放すのではなく、抱え込まない仕組みをつくることが、ケアマネジャー自身を守ることにもつながると思います。

現場ではすでに使われている保険外サービス

 

ーー介護保険外サービスは、ケアマネジャーの負担軽減につながると思いますか?

 

大きな可能性があると思います。
通院付き添いや家事、手続き代行など、ケアマネジャーがやらなくてもいいことはたくさんあります。「ケアマネジャーが全部やる」から、「適切な支援を提案する役割」へシフトすることが重要です。最初からケアマネジャーが対応してしまうと、「無料でやってくれる存在」になってしまう。そうならないためにも、保険外サービスを選択肢として提示することは、利用者にとっても、ケアマネジャーにとってもプラスだと思います。

実際に私が担当する利用者さんでも、通院付き添いで介護保険外サービスを利用している方は多くいらっしゃいます。


ーー改めて、ケアマネジャーのやりがい・魅力はどこにありますか?

 

ケアマネジャーは、利用者さんの生活を全体で見ることができる仕事です。
デイサービスでの様子、在宅での生活、医療情報、家族関係。それぞれの情報が集まる立場だからこそ、その人の人生や価値観に深く触れることができます。

特に終末期や人生の節目に関わる場面では、「人の人生に向き合う仕事なんだ」と強く感じますね。大変なことも多いですが、それ以上に得られるものがある仕事だと思っています。

ーー今後、ケアマネ業界にどんな未来を期待していますか?

 

いま現場では、70歳を超えてもなお、引退せずに踏ん張り続けているケアマネジャーが少なくありません。その方々に支えられて、何とか現場が回っているというのが現状です。この状況が続けば、いずれ制度そのものが立ち行かなくなるのではないか、という強い危機感を持っています。

だからこそ、新人が育ってほしいし、一人で抱え込まないこと、迷ったときに立ち戻れる実務のよりどころを持つこと、そして、ケアマネジャーという仕事の価値を、きちんと社会に伝えていくことが大切だと思っています。

この本が、「もう少し続けてみようかな」「ここで辞めるのは、まだ早いかもしれない」そんなふうに感じてもらえる、踏みとどまるきっかけなってくれたら、これ以上うれしいことはありません。

書籍「1分でわかる 新人ケアマネのしごと術」の表紙画像

1分でわかる 新人ケアマネのしごと術

編集部コメント

本書の魅力は、「こんなとき、どう考えればいいのか」という具体的な場面に寄り添ったアドバイスが数多く詰まっている点にあります。
現場で実際に起こる一つひとつの事象に向き合いながら、「大丈夫、その悩みはあなただけじゃない」と語りかけてくれるような一冊です。
これからケアマネジャーを目指す方にも、いままさに現場で悩んでいる方にも、ぜひ手にとっていただきたいと思います。(編集部・高橋)